三国志 〜生と死と心〜

原作 羅貫中『三国志演義』 作・絵 彩ますみ

     【28】 大問題児・藍泰光生

そして、関羽が張飛を義弟として、丁度一年経った。
その後も、関羽は、河東郡解県から亡命して、張飛と知り合う前から、自らこつこつ貯めてきたお金で、引き続き学習塾を経営していた。

関羽の塾の生徒が数人だけだった頃は、子供たちみんなが、関羽を先生として尊敬して、慕っており、日々学問を学んでいた。
そして、関羽の清廉で誠実で、思いやりがあり優しい人柄もあって、いつしか周りには、若いが偉大な先生だと、評判を呼び、関羽の塾の経営は順調であった。
そして、張飛が黄巾賊のせいで、天涯孤独となり、関羽を義兄として、義兄弟の契りを結んでからは、張飛も塾の経営に加わっていた。

張飛は関羽の塾の助手、炊事、そして元々が肉屋であったため、猪や豚などの動物を狩っていた。
関羽の塾の教え子たちに、今で言う学校給食を作る役目も、張飛が全部担当していた。
そんな感じで、関羽と張飛は、黄巾賊の害を受けることなく、助け合いながら平穏に暮らしていた。

しかし、ある日、関羽の塾に大騒動を巻き起こし、関羽を悩ませるような、大問題児が尋ねてきた……。
名前を藍泰(らんたい)、字は光生(こうせい)という男の子であった。

藍泰が初めて、関羽の塾を尋ねてきた日は、スッキリとしてよく晴れた青空であった。
「光生。今度の先生は偉大な先生だから、くれぐれもご迷惑をかけてはいけないよ!」
「はぁ? そんなもん、俺が知ったことかよ!」
「光生! いい加減にしなさい!」

男の子を一人連れた若い女性が、関羽の塾の門をくぐってくる。
細身で、子供にしてはなかなか長身の、少々目つきの鋭い少年。
この男の子が、藍泰である。
そして、藍泰を連れてきた女性は、藍泰の母親だ。
そう、この藍泰が、関羽が第一章で思わず説教し、やむなく戦った黄巾の青年に、よく似ているのであった……。

藍泰の母親は、庭で掃除をしていた張飛に声を掛けた。
「あのう……、関羽先生の塾は、こちらですか?」
「ああー、兄貴の新しい生徒さんだな!」
張飛は、持っていたほうきを置くと、明るく笑った。
「はい……貴方さまは?」
「あー、俺は、関羽兄貴の義弟。今じゃこの塾の助手もしてる。張飛ってんだ!」
「張飛さまですね」
「そうそう。宜しくっす!」
張飛は、元気よく笑って、ぺこりと頭を下げ挨拶した。

「先日、関羽先生宛てに書簡をお出し致しまして……」
「ああ、兄貴、その書簡なら見てたよ!」
「関羽先生は、周りに慕われる偉大な先生とお聞きしております」
「う〜ん、確かにそうだな。俺なんか、年中兄貴には怒られっぱなしだけどな! あはは! ……けど、確かに筋通ってて、すっげー優しいぜ!」
「関羽先生は、とてもお若いのに、立派なお髯を蓄えられ、慈悲深いお方ですとか……」
「ああ、兄貴は確かに若いけど、顔がおっさんだからな〜! ま、俺もおっさん顔かも知れねーけど!」

女性は、困り切った様子で、藍泰を見た。
「これでお前の性格が直ればいいけど……」
「うるせえなぁ、クソババア!!」
「あん? なんだとぉてめえ?」

藍泰の暴言を聞いた張飛が、腕を組んで藍泰を睨む。
「母ちゃんに向かってクソババア? てめえなんか、クソガキだろーがっ!」
「クソババアだから、クソババアなんだよっ!!」
「あんだとぉ!? ゴルァ!! やるか、クソガキがっ!!」
張飛は、藍泰の胸倉を、乱暴に鷲掴みにした。

「てめー、俺にこんなことされてもそんな態度っつーのは、いい度胸だなあ!! ああん!?」
「知らねーよ!!」
「おー、いーんだな!? じゃあその生意気なツラ、ぶちのめしてやるかんな!! 覚悟しやがれっ!!」
「やめろ。張飛!」
その時、関羽が、張飛と藍泰の間に割って入ってきた。
「!!」

関羽は、呆れた瞳で張飛を見た。
「全くお前は……。外で怒鳴り声がしおるから、何事かと来てみれば……」
「わりい、兄貴。ついカッとしちまって。だってこのクソガキがよお〜……」
「むう……?」
関羽は、張飛から、藍泰に視線を移した。

「……で……、でけえ……」
態度が大きかった藍泰だったが、関羽を初めて見た瞬間は、その巨漢ぶりに圧倒され、黙り込んだ。
関羽は、静かな様子で藍泰を見下ろした。
「お主が、藍泰か?」
藍泰は、ハッとして、関羽に答えた。
「……そーだけど、あんたは?」
関羽は、藍泰に丁寧な様子で挨拶をし、頭を下げた。
「わしは、姓は関、名は羽。字を雲長。関羽雲長と申す。今日よりお主の師だ。お主のことは、先日、この書簡にて、こちらのお母上からお聞きしておる」
「えーっ!?」

藍泰は、驚いて、関羽を見上げた。
「あんたが俺の先公!? あんたみてーな髭おばけが、先公だって!?」
初対面の関羽に対し、かなり失礼なことを言った藍泰であったが、関羽はそれには全く構わない様子であった。
「ぬう……」
関羽は、藍泰をじっと見た。
「失礼致す」
そして、関羽は、藍泰の顎を手に取り、頬に触れ、彼の瞳を見た。
「なっ……、なにすんだよっ!?」
藍泰は、思わぬ出来事に、顔をカッと赤くした。

藍泰の瞳を見た関羽は、眉間にしわを寄せた。
「瞳が……、曇り、心を閉ざしておる……」
「はぁ?」
藍泰は、関羽の言葉の意味が全く分からず、タメ口を叩く。
「おい、あんた。そりゃ、俺のことかよ!」
「子供らしからぬ、澱んだ瞳だ……」
「はぁっ!?」
「子供らしく、その瞳を輝かせてあげたいものよ」
「なんじゃそりゃ?」

藍泰は、笑い出した。
「あはははは……」
「何故、笑う?」
「俺の瞳を輝かせるだぁ? なに寝ぼけたこと、言っちゃってんの? くっさー! これだから、古臭い人間は困るんだよなー!」
「こんのやろ〜! 言わせときゃー、このクソガキがぁ!!」
「張飛っ! お前は下がっておれ!!」
「へいっ……」
生意気な藍泰に激怒した張飛だったが、関羽の一喝にはあっさり従った。

張飛がいなくなり、関羽はほうっと一息をつき、藍泰を見下ろした。
「張飛が失礼致した。あれはわしの義弟だ。荒くれ者の上、短気で粗暴だが、心根はとても良いやつだ」
「あっそう……」
藍泰は、どうでもよさそうだった。

しかし、少し黙った後、藍泰はぽつりと呟いた。
「……なんかあいつ、俺みたいなやつだね」
藍泰が、そう言ったので、関羽は少し苦笑した。
「はは……。そうであるな。確かに似ておるわ」
 関羽は、そう言って藍泰を見た。

「あ……、あの……」
藍泰の母親が、関羽の前に進み出た。
「貴方さまが、関羽先生ですね?」
「はい、いかにも」
「確かに、噂通りのお方ですね。お若くお髭の長い、とても立派なお方ですとか……」
「いや、わしはそのような大それた者ではござらぬ。母御、先日の書簡はしっかり拝見させて頂きましたぞ。ご子息のことはしっかり面倒を見ますゆえ、ご安心くだされ……」
「はい……」
「それでは母御。こちらでお待ちくださいますかな」
「わかりました」
関羽は、藍泰の母親に、深く頭を下げ、そして藍泰に向き直った。
「では、藍泰よ。こちらが塾内だ。ついて参れ」

「さあ、そこに座るがよい」
藍泰を連れて、学童舎に入った関羽は、その準備室に藍泰を通して、藍泰の背中をそっと押し、そこにあった椅子に座るよう促した。
「おー……」

しかし、藍泰の座り方は、いかにも不良少年が座るような、大変行儀の悪い座り方であった。
卓上に両足を、しかも土足のまま乗せて、腕組みして態度が大きい感じであったのだ。

それを見た関羽は、目を吊り上げ、藍泰に強い口調で怒鳴った。
「卓上に足を引っ掛けるな!」
「ひえっ!?」
「行儀が悪いであろう!!」
関羽の声が大きく、よく通る声だったため、藍泰は体制を崩し、ずるっとこけそうになった。
「び、ビックリした……。なんなんだよっ、脅かすんじゃねーよ!!」
「椅子は、そのように座るものではない!」
関羽は、藍泰を鋭い目で睨んだ。
「……!」
藍泰は、関羽のあまりに鋭く怖い目線に、恐れをなして、関羽の様子を窺いながら、ちゃんと座り直した。
「うむ。良かろう……」
藍泰が、ちゃんと座ったのを見て、関羽は頷き、ゆっくりと髭を撫でて、冷静な様子に戻った。

「藍泰よ。お初にお目に掛かるからな、お主のことをいろいろ知りたいと思う。年は幾つになる?」
「は? ……十歳だけど?」
つい今しがた、いきなり関羽に怒鳴られたため、藍泰は、まだ様子を窺うように、関羽を警戒しながらチラリと見た。
「ほう、十歳か……。十歳の割には、身の丈が高く、大人びておるな。では、字はなんと申すか」
「字って……、光生(こうせい)だけど」
「ほう、どのような漢字になる?」
「一応、『光に生きる』って書くんだよ」
「ほう……」

すると、関羽は目を細めて、髭を撫でていた。
関羽は、感慨深い様子で、藍泰を見ていた。
藍泰の字について、関羽にはいろいろ思うところがあったらしい。
(……わしも、雲長という字の前は、長生という字であった。わしのかつての字と一文字同じなのだな……)

心の中でそう思っていた関羽は、穏やかに微笑み、藍泰を見下ろしていた。
「光に生きるとは、良い字ではないか」
「まー、名前負けしてってどよ!」
「ははは……。そう思うならば、これからは名前に相応しくなるが良かろう」

関羽は、更に藍泰に聞いた。
「では、誕生した日はいつになる」
「俺の誕生日? 六月二日だけど」
「ほう、お主も六月か。わしも、六月二十四日だぞ」
「えー? あんたも六月生まれ?」

しかし、藍泰は訝しげに、関羽を見た。
「誕生日なんか聞いて、どーするんだ。ひょっとして俺に何かくれるとか?」
「そういうわけではないが、初対面なのだから、お主のことを知りたいだけだ」

藍泰は、関羽を見上げて、訝しげに訊ねた。
「なあ。なんであんたって、そんな言葉遣いなんだよ? 偉そうなわけでもねーし、馬鹿丁寧でもない」
「言葉遣いか?」
「大体、先公っつーのは、偉そうなもんだぜ。なのに、なんであんたは、さっきから聞いてりゃー、俺にまでそんな堅っ苦しー言葉遣いを……」
「相手がどのような者であろうとも、ぞんざいな言葉遣いをする必要などない」
「はあ……」
「相手の心を重んじ、誠意と真心を持って接するのだ」
「……」
「そうすれば、おのずと相手に心が伝わるものぞ」
藍泰は、これまで三度追い出された、それぞれの塾の教師を思い出していたが、関羽はどの教師とも違っていた……。

藍泰は少しの間を置いて、関羽を鋭い瞳で見て、尋ねた。
「なあ」
「む?」
「俺のこと、お袋の手紙を見て、どーゆーガキかって知ってんだろ? 問題児だって! 今まで三回、他の塾の先公に追い出されてんだぜ? 俺」
「ああ、存じておる……」
「それがどーゆーことか、分かってるんかよ。とんでもない危険なやつが、今、目の前にいるんだぜ?」
「危険……、とな。あまりそうは見えぬがな」
「どーする。あんたも今のうち、俺を追い出すか? 別に構わねーけどよ!」
藍泰は、ふて腐れていた。
関羽は、そんな藍泰の瞳をじっと見ていた。
「……ぬう……。瞳は、そうは申しておらぬな。寂しいと申しておる……」
「……!!」

その瞬間、藍泰は、カッとして、関羽を睨み付けて怒鳴った。
「うるせえ!! 黙れっ!!」
「なに?」
関羽は、鋭く目を細め、眉をピクリとさせた。
「俺の気持ちなんか、あんたに分かるわけねーだろ!」
「確かに、人は他人の心など、容易には分からぬ……。しかし、だからと申して、素知らぬ顔をせよというわけには参るまい。なにより、今日よりお主はわしの教え子。教え子の悪いところを正し、導くのがわしの務めぞ」

関羽は、そう言って、藍泰の前にしゃがみ込んだ。
「!!」
見下ろされているのも動揺するが、更に関羽は、目線の高さを自分に合わせてきたのだ。目の前の関羽の顔を見た藍泰は、動揺し、うろたえる。
「なんだよっ……」
「人と話をする時は、目線の高さを合わせるものだ」
「……!!」
藍泰は、この時まともに、関羽の瞳を見た。
関羽の瞳は鋭くて清廉な瞳で、藍泰は思わず逸らしたくなった。
関羽のその瞳はまるで、自分の心を見透かしそうで、藍泰は怖かったのだ。

関羽は、藍泰をじっと見て尋ねた。
「藍泰。お主、周りの者をどのように思うておる……?」
藍泰は、少し黙っていたが、関羽をキッと睨み付けて怒鳴った。
「……先公なんか、大人なんか、クソ喰らえだっ!! 大人が俺らを苦しめんだよっ!!」
「……大人が我らを苦しめる、とな……。この乱れた世。確かにそうかも知れぬな」
「気持ちわりー先公。なんで認めんの?」
 
関羽は、しゃがみ込んだまま、鋭い瞳で、藍泰の両肩をがっしり掴んだ。
「!!」
怒られると思った藍泰は、ビクリとして、ギュッと瞳を閉じ、なにも言葉が出ない。
「なにを言われても構わぬが、これだけは言うておく。わしは、必ずや、お主の瞳を輝かせる。分かったな!」
「……はぁ……?」
しかし、怒られたわけではなかったため、藍泰は拍子抜けしてしまった。
「返事はどうした!」
藍泰を見て、関羽は言葉を強める。
関羽の、鋭くて迫力のある瞳が、藍泰の瞳に深く突き刺さる。
「返事って……」

関羽は、厳しい表情で藍泰を見下ろす。
「お主、人としての基本がなっておらぬな」
「なんだよ基本って。勉強が出来ることか?」
「違う……。ならば教えようぞ。人の基本とは、挨拶だ。お主はそれがなっておらぬ」
「挨拶なんて、そんなつまんねーもん……」
「……何か申したか?」
「!!」

ブツブツ文句を言った藍泰に、関羽は、とても鋭くて怖い顔をした。
そんな関羽の顔を見て、藍泰は、思わず呟いた。
「……わ、分かったよ……」
関羽は、それを聞いて、頷き、静かに笑った。
「よし。言われたことに対して返事や挨拶をする、最低限の基本だ。まず、お主はそこからだ。言葉遣いを直すのは、その後としようぞ……」
「……」
「では、明日からこの塾に通い、わしに元気な姿を見せよ。今日は寄り道せず、真っ直ぐ家に帰るのだぞ!」

「――!!」
藍泰は、逃げるように関羽の塾を飛び出した。
思いっ切り走った藍泰は、竹林の原っぱで立ち止まり、息を切らした。
「はあはあ……」
そして、汗を拭い、関羽の塾の方向を振り返った。

「……あいつ……。今までの能なし先公と違う……」
今までの教師は、自分のペースに乗せて、散々振り回していた藍泰だったが、関羽にはそれが通用せず、逆に関羽の手のひらに乗せられている気がする……。

「バカかっ。あんなやつのこと、考えんなっ……!」
藍泰は、脳裏に関羽の顔がちらついて、思わずブンブンと頭を振った。
藍泰は、多少なりとも、関羽に動揺していた。
「……調子狂うぜ、あの関羽って先公……。なんか苦手なやつ……」

その時、誰かが、藍泰に声をかけてきた。
「おう、藍泰!」
「なんだよ、朱政(しゅせい)。おめーか……」
藍泰の悪友、朱政であった。
字は、豊賢(ほうけん)である。

「おめー、また新しい塾に入れられたんだって?」
「そーだよ。情報、早えーな」
「おめーのお袋さんも、懲りねーやっちゃな。そこまでして、藍泰を勉強させてーのかよ」
「知るかよ、そんなこと。つーかあのババァ、いー加減、マジウザいんだけど」

「新しい塾の先公ってどんなやつよ?」
藍泰は、関羽を思い出し、鋭い瞳で答える。
「バカみてーになっげー髭の、やたらでけー髭おばけ男!」
「はあ?」

それを聞いて、朱政は一瞬目が点になり、次の瞬間、爆笑した。
「あははは〜。なんじゃそりゃ? 髭おばけ!? つーか、どんぐらいなげー髭なの?」
「少なくとも、腹には届いてたね」
「は? スゴくね? ……つーことは、少なくとも二尺? いや、それどころの騒ぎじゃねーな」
「つーか、何であそこまで髭伸ばしてんのか、俺には理解不能。うっとーしくねーのかなぁ? ウチのババァもよ。髪がかなりなげーけど。あれが顔に付いてるよーなもんだぜ? あれじゃー夏は死ぬっつーの」
「だな。間違いなく死ぬな」
「ありゃー、蒸れんだろーぜ」
「やたらでけーって、どんぐらいでけーやつなの?」
「八尺……? ……いや、九尺ぐらいあるかも知んねーな……」
「きゅ、九尺だあ!? マジで!? そんなやつ、マジでいんの? で、髭までなげーわけ? とんでもねーやつだな……」

その夜、関羽と張飛は、塾を閉め、近所の居酒屋に飲みに来ていた。
ダァンッ!!
「なんなんだ、あのクソガキゃー!!」
張飛は、まだ藍泰に怒って、卓上を激しく拳で叩き付けて、乱暴に酒を飲んでいた。
それを見ていた関羽は、冷静に張飛を止める。
「少しは落ち着かぬか……」
「けっ。最近のガキは口の訊き方も知らねー……」
「お前もだぞ。張飛」
関羽は、張飛をやや冷ややかな横目で見た。
張飛は、目を丸くして、恥ずかしそうに頭を掻く。
「えっ? いやあ、兄貴っ。俺はあそこまでじゃーねーよ……」

関羽は、静かに言った。
「忘れられぬな、藍泰の瞳は……。本来は、おそらく輝きに満ちる瞳であろう。それが、ああも曇っておるとは……」
「はあ? そういやあ、関羽兄貴は、俺と初めて会った時も、そう言ってたよな」
「うむ。お前の瞳は、前向きな光に満ち溢れておるからな」
「そっか……。なんか兄貴にそう言われると、嬉しーっつーか……。ははっ」
張飛は照れて頭を掻いた。

しかし、昼間の藍泰の生意気な様子やトラブルを思い出し、張飛はまたイラつき始めた。
「つーか、マジうぜーんだけど。あの藍泰ってやろー……。俺はともかく、兄貴にまであんなナメた態度しやがって。マジでムカつくぜ!」
「これ、張飛。本当にお前は短気だのう」
「だってよぉ。こんだけでけー兄貴見ても、あんなでけー態度っつーのは、ある意味大したやつだぜ」
「藍泰は、わしのような者と出会うのは、初めてのことで、おそらく動揺しておったのだろう……」
「ええ? 動揺!? あいつが?」
「ああ。少なくとも、わしにはそう見えたがな」
「ふ〜ん……。あのガキが動揺ねぇ……」

張飛は、驚いて、頬杖を突いて関羽を見た。
「なあ、関羽兄貴。あんなクソガキ、マジで生徒にする気かよ?」
「ああ……。あの瞳が、輝く様子を見たいものだ」
「あんな問題児をかぁー?」
「お前とて、大問題児だぞ、張飛。わしはそれを義弟としておる……。よいか張飛。酒は呑むものだ。呑まれるでないぞ」
「んぐっ!!」

張飛は、さっきから酒を一気飲みしていたが、関羽に釘をさされ、気管に酒を詰まらせ、むせていた。
「げほげほっ!!」
張飛は、慌てて胸を叩く。
関羽は、そんな様子の張飛を見て笑っている。
「ははは……」

関羽は、優しい顔で、張飛の背中を摩り、水を差し出す。
「大丈夫か。張飛?」
「うん……。ありがとな。あ〜あ〜。マジで兄貴には頭が上がんねーな……」
「藍泰は、お前に似ておる。張飛、お前も喧嘩腰になる前に、藍泰が何を考えておるのか理解してやるのだぞ」
「俺が、あのガキに似てる!? そーかぁ? ……ま、兄貴に言われちゃ、うん、分かったよ」

  

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